介護の虐待防止のための指針|委員会と研修の回し方
公開 2026年9月3日
目次8項目
- 1介護の虐待防止で求められている4つのもの
- 加算ではなく運営基準の要件になる
- 委員会は他の委員会と兼ねられる
- 担当者を決めて指針に書く
- 2介護の虐待防止のための指針に書くこと
- 虐待の5つの類型を具体で書く
- 悪意のない行為も含める
- 職員が相談できる窓口を書く
- 3介護の虐待防止委員会の回し方
- 議題を用意しておく
- 不適切なケアを議題にする
- 記録に決めたことを書く
- 4介護の虐待防止の研修で扱うこと
- 自社の事例で考える
- 不適切なケアの線引きを話す
- 背景にある要因も扱う
- 5介護で虐待に気づいたときの動き
- 通報の連絡先を指針に書く
- 通報した人を守る形にする
- 記録は時系列で残す
- 6介護の虐待防止と身体拘束のつながり
- 3つの要件を指針に引く
- 委員会を同じ場で開く
- 記録の様式をそろえる
- 7介護の虐待防止の担当者は何をするか
- 相談を受ける窓口になる
- 委員会と研修の予定を持つ
- 市町村への通報の窓口を把握する
- 管理者と役割を分ける
- 8介護の虐待防止のための指針を平時に落とす
- 気づきを出しやすい形にする
- 基本の考え方を掲示する
- 年に1回指針を見直す
虐待防止の指針というと、明らかな暴力を想定して作られがちです。実際に問題になるのは、忙しいときの強い口調や、本人の意思を確かめずに済ませてしまう場面のほうが多くなっています。
一般には、5つの類型を示したうえで、気づいたときの手順と相談の窓口を書きます。悪意のない行為まで含めておくと、気づける範囲が広がります。
とはいえ、線引きを厳しくしすぎると、現場が萎縮します。
ポイントはここです。介護の虐待防止のための指針は、悪意のない行為も対象にする前提で作ります。
ここでは、求められている4つのもの、指針に書くこと、委員会と研修の回し方、そして日々の気づきを届ける経路までを順に整理します。
介護の虐待防止で求められている4つのもの
介護の虐待防止では、事業所に4つの取り組みが求められています。2024年度から、すべての介護サービス事業者が対象になりました。
- 委員会定期に開いて検討
- 指針考え方と手順
- 研修と担当者周知と責任の所在
4つはそれぞれ独立したものではなく、つながって働きます。指針で考え方を示し、研修で周知し、委員会で検討し、担当者が回す形です。
そのため、どれか1つだけを整えても動きません。
加算ではなく運営基準の要件になる
虐待防止の取り組みは、加算を取るための要件ではありません。運営基準に定められた事項なので、満たしていないと減算の対象になります。
加算ではなく運営基準なので、取り組まない選択がありません。
委員会は他の委員会と兼ねられる
虐待防止委員会は、単独で開く必要はありません。身体拘束適正化委員会や、事故防止の委員会と合わせて開く形が認められています。
小規模な事業所では、職員全員が同じ会議に出ることもあります。そのうえで、議事録の中で虐待防止として扱った部分が分かるようにしておきます。
まとめて開く場合も、それぞれの検討内容が記録から読み取れる形にします。
担当者を決めて指針に書く
虐待防止の担当者を決めて、指針に書いておきます。氏名まで書くと更新の手間が増えるため、役職で書いて別紙に氏名を置く形もあります。
担当者は、相談を受ける窓口にもなります。そのため、職員が話しかけやすい人であることが実務では効いてきます。
管理者が兼ねる場合は、管理者に相談しにくい場面を想定して、別の経路も用意します。
介護の虐待防止のための指針に書くこと
介護の虐待防止のための指針には、考え方から手順までを1つの文書に収めます。別々の文書に分かれていると、必要なときに探すことになります。
- 1 基本の考え方 虐待を許さない姿勢
- 2 虐待の定義 5つの類型
- 3 体制 委員会と担当者
- 4 気づいたときの手順 報告と通報
- 5 相談の窓口 職員が相談できる先
- 6 研修 年間の予定
この順で書いておくと、上から読んで理解できる形になります。そのうえで、手順の部分だけを1枚にして掲示する方法もあります。
| 項目 | 書く内容 | 気をつけるところ |
|---|---|---|
| 基本の考え方 | 虐待を許さない姿勢 | 短く、掲示できる形で |
| 虐待の定義 | 5つの類型と例 | 具体的な行為で書く |
| 体制 | 委員会と担当者 | 氏名は別紙に |
| 気づいたときの手順 | 誰に報告するか | 通報の経路も書く |
| 相談の窓口 | 職員が相談する先 | 内部と外部の両方 |
| 研修 | 内容と回数 | 年間計画とつなげる |
| 発生時の対応 | 事実確認と措置 | 市町村への協力 |
右の列は、実務でつまずきやすい点です。そのうえで、氏名や連絡先は別紙にしておくと、人が代わったときに差し替えで済みます。
虐待の5つの類型を具体で書く
高齢者虐待防止法では、身体的虐待、介護等放棄、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5つが示されています。
条文の言葉をそのまま写すと、現場では判断の材料になりません。それぞれについて、介護の場面で起こりうる行為を具体的に書きます。
「大きな声で叱る」「呼びかけに応じない」「同意なく居室に入る」。このくらいの具体性があると、自分の行為と照らせます。
悪意のない行為も含める
虐待というと、意図的な行為を想像しがちです。実際には、忙しさや知識の不足から起きる場面のほうが多くなっています。
悪意のない行為も含めて書いておくと、気づける範囲が広がります。
職員が相談できる窓口を書く
同僚の行為に気づいたとき、どこに言えばよいかが分からないと止まります。そのため、相談できる先を複数書いておきます。
内部の担当者、管理者、法人本部。それに加えて、外部の窓口も書きます。そのうえで、相談したことで不利益を受けないことも明記します。
書いてあるだけでも、相談のハードルは下がります。
介護の虐待防止委員会の回し方
介護の虐待防止委員会は、開く頻度がサービスの種類によって変わります。自事業所に求められる回数を確認したうえで、年間の予定に入れます。
新入職員への研修は、入職の時期に合わせて行います。そのため、年間の予定とは別に、採用のたびに動く形になります。
議題を用意しておく
委員会を開いても、話す内容が決まっていないと10分で終わります。「特にありません」で終わる会議が続くと、開くこと自体が形骸化します。
議題は、日々の記録から拾えます。ヒヤリハット、苦情、身体拘束の記録、職員からの相談。
これらの中から、その回で扱うものを1つか2つ選びます。そのうえで、前回の検討事項がどうなったかも確認します。
議題を集める役割を担当者が持っておくと、開催の準備が回ります。
不適切なケアを議題にする
虐待に至らない場面でも、気になる行為はあります。声の大きさ、言葉づかい、待たせる時間、確認せずに進めること。
こうした場面を議題にすると、検討する内容が具体的になります。そのうえで、責める形ではなく、どうすればよかったかを話す場にします。
個人を特定しない形で扱うと、出しやすくなります。
記録に決めたことを書く
委員会の記録に、出席者と議題だけが書かれていることがあります。これだと、何を検討して何を決めたのかが読み取れません。
検討した内容、決めたこと、誰がいつまでに行うか。そのうえで、次回に確認する事項も書いておきます。
記録は、実地指導で示す資料にもなります。
介護の虐待防止の研修で扱うこと
介護の虐待防止の研修は、内容によって日々の行為への効き方が変わります。制度の説明だけで終わると、自分の行為とは結びつきません。
上の2つが、いちばん行為に近い部分です。一方で、下に行くほど背景や仕組みの話になります。
年に複数回行う場合は、回ごとに内容を変えると偏りません。そのうえで、新入職員には5つの類型から入る形が分かりやすくなります。
自社の事例で考える
外部の資料に載っている事例は、他人事として聞かれがちです。自事業所で実際にあった場面のほうが、話が具体的になります。
個人が特定されない形にして、状況と対応を共有します。そのうえで、どうすればよかったかを一緒に考える形にします。
答えを示すより、話し合う場にするほうが残ります。
不適切なケアの線引きを話す
どこからが不適切なのかは、人によって受け止め方が違います。そのため、事例を出して話し合っておくと、判断がそろってきます。
線引きを話し合っておくと、日々の判断がそろいます。
背景にある要因も扱う
不適切なケアの背景には、人手の不足や、知識の不足があります。本人の行動への対応が分からないまま、力で抑える形になることもあります。
そのため、認知症の理解や、対応の技術も研修の内容に入れます。そのうえで、職員のストレスをどう減らすかも扱います。
背景に手を入れないと、注意だけでは変わりません。
介護で虐待に気づいたときの動き
虐待に気づいたとき、まず確認するのは本人の安全です。そのうえで、通報の判断に進みます。
- 本人の安全が確保されているか はい次へ いいえまず安全を確保する
- 虐待を受けたと思われる状況か はい市町村へ通報 いいえ記録に残して委員会へ
- 事業所の職員が関わっているか はい外部の窓口も使う いいえ担当者へ報告
- 記録を残したか はい対応できている状態 いいえ時系列で残す
通報は事業所の判断を待たずに行える形にしておく
2つ目の「思われる状況」という書き方が重要な部分です。確証がなくても、そう思われる状況であれば通報の対象になります。
通報の連絡先を指針に書く
市町村の担当課、地域包括支援センター、都道府県の窓口。それぞれの連絡先を指針に書いておきます。
夜間や休日の連絡先も確認しておきます。そのうえで、電話番号だけでなく、何を伝えるかの項目も書いておきます。
その場で調べる時間があると、通報が遅れます。
通報した人を守る形にする
高齢者虐待防止法では、通報したことを理由に解雇その他の不利益な取扱いを受けないことが定められています。
この点を指針に書いておくと、職員が動きやすくなります。そのうえで、事業所としてもその姿勢を示します。
同僚の行為を通報するのは、心理的に大きな負担があります。匿名で相談できる経路も用意しておくと、最初の一歩が出やすくなります。
法人本部や外部の相談先を書いておくと、事業所内で相談しにくい場合にも使えます。そのうえで、相談を受けた側の対応も決めておきます。
相談が握りつぶされる形になると、次からは誰も言わなくなります。
記録は時系列で残す
気づいたこと、確認したこと、伝えた相手、その結果。これらを時系列で残します。
後から経緯を説明する場面で、この記録が材料になります。そのうえで、市町村の調査に協力する際にも使われます。
推測と事実を分けて書くと、読む側が判断できます。
介護の虐待防止と身体拘束のつながり
介護の虐待防止と身体拘束適正化は、別々の取り組みとして求められています。とはいえ、内容はつながっています。
身体拘束適正化
- 緊急やむを得ない場合の3要件
- 委員会と指針と研修
- 記録の様式が決まっている
- 本人と家族への説明
虐待防止
- 5つの類型が対象
- 委員会と指針と研修と担当者
- 通報の仕組みがある
- 悪意のない行為も含む
2つの指針は、内容がつながる形で作ります。
3つの要件を指針に引く
身体拘束が認められるのは、切迫性、非代替性、一時性の3つを満たす場合に限られます。この要件を、虐待防止の指針からも参照できる形にしておきます。
要件を満たさない拘束は、身体的虐待にあたります。そのため、2つの文書で扱いが食い違わないようにします。
同じ言葉を使って書いておくと、読む側が混乱しません。
委員会を同じ場で開く
身体拘束適正化委員会と虐待防止委員会は、同じ場で開けます。扱う内容が重なるため、まとめたほうが議論も深まります。
そのうえで、議事録の中でどちらの検討だったかが分かるようにします。両方の実施を示す必要があるためです。
開催の予定も、年間の計画に1つの枠として入れておきます。
記録の様式をそろえる
身体拘束の記録と、虐待に関する記録は別の様式になります。一方で、同じ利用者について両方が残る場面があります。
2つの記録を同じ棚に置くと、経緯を並べて見られます。
介護の虐待防止の担当者は何をするか
虐待防止の担当者は、名前だけの役職になりがちです。実際に何をするのかを決めておかないと、動きません。
- 集める気づきと相談を受ける
- 回す委員会と研修を進める
- つなぐ市町村と外部の窓口へ
3つのうち、いちばん大事なのが1つ目です。気づきが集まらないと、委員会で扱う議題も出てきません。
相談を受ける窓口になる
職員が気になったことを言える相手であることが、担当者の条件になります。役職が高いほどよいわけではありません。
相談しやすい人が担当だと、気づきが集まります。
委員会と研修の予定を持つ
委員会の開催、研修の実施、指針の見直し。これらの予定を担当者が持ちます。
年間の予定表を作り、日を決めておきます。そのうえで、議題の準備と記録の作成も担当します。
予定を持つ人がいないと、忙しい時期に流れます。
市町村への通報の窓口を把握する
市町村の担当課がどこか、誰に連絡すればよいか。これを把握しておくのも担当者の役割です。
年に1回は連絡先を確認し、変わっていれば指針を更新します。そのうえで、地域の研修や連絡会にも参加すると情報が入ります。
外部とのつながりが、いざというときに効いてきます。
管理者と役割を分ける
担当者と管理者を同じ人にすると、相談の経路が1つになります。管理者の行為が問題になる場面では、相談する先がなくなります。
そのため、可能であれば別の人を担当者に置きます。そのうえで、外部の相談先も用意しておきます。
小規模な事業所では難しい場合もあるため、法人本部を経路に入れる形もあります。
介護の虐待防止のための指針を平時に落とす
介護の虐待防止のための指針は、作っただけでは動きません。日々の気づきが委員会と研修に届く経路ができて、はじめて回ります。
- 1 指針 考え方と手順
- 2 掲示 基本の考え方を出す
- 3 日々の気づき 不適切なケアを拾う
- 4 委員会 議題として検討
- 5 研修 事例として扱う
3つ目の「日々の気づき」が入口になります。ここが動かないと、委員会も研修も外の話で終わります。
気づきを出しやすい形にする
気になったことを書ける用紙を、休憩室などに置いておきます。ヒヤリハットの様式と兼ねる形でも構いません。
名前を書かずに出せる形にすると、気づきが集まります。
基本の考え方を掲示する
指針の全文を掲示しても読まれません。基本の考え方の部分だけを1枚にして、職員の目に入る場所に貼ります。
そのうえで、利用者や家族にも見える場所に掲示する方法もあります。事業所の姿勢を示すことになります。
短い言葉のほうが、毎日目に入ったときに残ります。
年に1回指針を見直す
指針は、作った時点の内容のまま古くなります。連絡先が変わり、担当者が代わり、法令も改正されます。
年に1回、委員会の場で見直す形にしておきます。そのうえで、その年に起きたことがあれば反映します。
見直した記録を残しておくと、次の年の材料になります。
様式は虐待防止のための指針テンプレートからダウンロードできます。委員会の記録は委員会記録、拘束の記録は身体拘束の記録にまとめています。
よくある質問
虐待防止の取り組みはいつから義務になったのですか。
2022年4月から、すべての介護サービス事業者に義務づけられています。委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者の設置の4つが1組になっています。加算ではなく運営基準の要件なので、満たしていないと減算の対象になる場合があります。
虐待に気づいたら誰に伝えるのですか。
高齢者虐待防止法で、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者には市町村への通報が求められています。事業所の中で止めず、市町村へ通報する形になります。指針に通報の経路と連絡先を書いておくと、その場で動けます。
身体拘束は虐待にあたりますか。
要件を満たさない身体拘束は、身体的虐待にあたる場合があります。緊急やむを得ない場合の3つの要件と手続きを満たしていない拘束は、虐待として扱われます。身体拘束適正化の指針と虐待防止の指針は、内容がつながる形で作ります。