介護のBCPの作り方|感染症と自然災害の2本立て
公開 2026年9月3日
目次8項目
- 1介護のBCPとは何を決める計画か
- 何をやめるかを決める計画になる
- 感染症と自然災害を分ける
- 発生時に読める形にする
- 2介護のBCPで感染症と自然災害を分ける
- 感染症は人の手当てが中心になる
- 災害は場所とライフラインが中心になる
- 共通する部分は別紙にする
- 3介護のBCPで優先する業務をどう決めるか
- 食事と排泄と服薬を最優先に置く
- 一時的に止められるものを挙げる
- 何人でどこまでできるかを試す
- 4介護のBCPに書く項目
- 指揮する人と代理を決める
- 安否確認の方法を試す
- 備蓄の数量と場所を書く
- 5介護のBCPと非常災害対策計画の違い
- 避難の後の話がBCPになる
- 重なる部分は片方にまとめる
- 訓練は合わせて行える
- 6介護のBCPの研修と訓練を回す
- 訓練は少ない人数でやってみる
- 研修の記録に内容を残す
- 見直しは年に1回の予定に入れる
- 7介護のBCPでつまずきやすいところ
- 国の様式をそのまま埋めない
- 応援を頼める先を具体に書く
- 半分の人数で並べ直す
- 感染症の側は勤務の組み替えまで書く
- 8介護のBCPを発生時に使える形にする
- 初動の1枚に絞る
- 各フロアに置く
- 年に1回差し替える
BCPを作ったものの、ファイルに綴じたまま一度も開いていない。そういう事業所は少なくありません。国の様式を埋めることが目的になってしまうと、実際に人が足りなくなった日には使えない紙になります。
一般には、優先して続ける業務を決め、人と物が足りないときの手当てを書きます。その裏返しとして、何をやめるかも決めることになります。
とはいえ、やめるものを書くのは気が進まない作業です。そこを避けると、すべてを続ける計画になってしまいます。
ポイントはここです。介護のBCPは、何をやめるかを先に決めておくための計画になります。
ここでは、何を決める計画なのか、感染症と災害の分け方、優先業務の決め方、そして発生時に使える形にするところまでを順に整理します。
介護のBCPとは何を決める計画か
介護のBCPは、災害や感染症が起きたときに、サービスをどう続けるかを決めた計画です。2024年度から、すべての介護サービス事業者に策定が義務づけられました。
- 優先する業務やめないもの
- 人と物足りないときの手当て
- 連絡誰にどう伝えるか
3つのうち、いちばん時間をかけたいのが1つ目です。
すべてを続ける計画は、人が半分になったときに使えません。
何をやめるかを決める計画になる
優先する業務を決めるということは、優先しない業務を決めることでもあります。入浴を週2回から週1回にする、レクリエーションを止める、といった判断です。
平時にこれを決めておかないと、当日に管理者が1人で判断することになります。そのうえで、家族への説明も同時に求められます。
やめるものを先に決めておくと、当日の判断が要りません。
感染症と自然災害を分ける
BCPは、感染症と自然災害の2本立てで作ります。起きることが違うため、備えるものも変わるためです。
感染症では、建物は使えますが、職員が欠けます。陽性者や濃厚接触者が出るたびに、出勤できる人が減っていきます。
自然災害では、建物や道路が使えなくなります。職員自身も被災するため、出勤できるかどうかが読めません。
そのため、1つの計画にまとめると、どちらの場面でも使いにくいものになります。2本に分けたうえで、共通する部分を別紙にする形が扱いやすくなります。
発生時に読める形にする
計画の本体は、どうしても分量が増えます。30ページの文書を、停電の中で読むことはできません。
そのため、初動の手順だけを1枚にまとめておきます。最初の1時間に何をするか、誰に連絡するか。この2つが書いてあれば足ります。
本体は事務室に置き、1枚は各フロアに置く。この二段構えにしておくと、両方が生きます。
介護のBCPで感染症と自然災害を分ける
介護のBCPを2本に分けるのは、欠けるものが違うためです。感染症では人が欠け、災害では場所とライフラインが欠けます。
感染症のBCP
- 職員が欠ける
- 建物は使える
- 数日から数週間続く
- 隔離と動線の分離
自然災害のBCP
- 建物や道路が使えない
- 職員も被災する
- 発生は突然
- 安否確認とライフライン
左は、人の手当てが中心になります。一方で右は、場所とライフラインの確保が中心になります。
感染症は人の手当てが中心になる
感染症の場面では、出勤できる職員が日ごとに変わります。今日は8人いても、明日は5人になるかもしれません。
そのため、人数ごとに何ができるかを書いておきます。8人のとき、5人のとき、3人のとき。それぞれで続ける業務を並べる形です。
そのうえで、応援を頼める先も決めておきます。法人内の他事業所、系列の施設、人材派遣。相手の名前と連絡先まで書いておきます。
災害は場所とライフラインが中心になる
災害の場面では、建物が使えるかどうかが最初の分かれ目になります。使えなければ、避難先での生活が始まります。
水、電気、ガス、通信。それぞれが止まったときにどうするかを書きます。非常用電源があるなら、何時間もつのかも確認しておきます。
そのうえで、備蓄の数量と保管場所を書いておきます。3日分といっても、利用者と職員の人数で必要量が変わります。
共通する部分は別紙にする
感染症と災害で、内容が同じになる部分があります。職員の連絡先、関係先の一覧、備蓄の場所、指揮する人の順序。
共通する部分を別紙にすると、更新の手間が半分になります。
介護のBCPで優先する業務をどう決めるか
介護のBCPで優先する業務を決めるとき、感覚で並べると差がつきません。どれも大事に見えて、結局すべてが優先業務になります。
そのため、止めたときに何が起きるかで並べる形にします。
- 止めると命に関わるか はい最優先で続ける いいえ次へ
- 数日なら止められるか はい一時的に止める いいえ次へ
- 外部に頼めるか はい委託や応援を検討 いいえ次へ
- 内容を薄くできるか はい回数や時間を減らす いいえ続ける方法を考える
命に関わるものから順に並べると、やめる順序が決まる
やめる順序が決まっていると、当日の判断が要りません。
食事と排泄と服薬を最優先に置く
止めると命に関わるのは、食事、水分、排泄、服薬の4つです。どれも、1日止まるだけで状態が変わります。
そのため、この4つは人数が減っても続ける前提で組みます。食事は調理を簡素にする、入浴は清拭に切り替える、といった形で薄くします。
薄くする方法も、平時に決めておくと当日に迷いません。
一時的に止められるものを挙げる
レクリエーション、外出の行事、面会の対応、季節の催し。数日から数週間であれば、止められるものがあります。
一時的に止めるものを挙げておくと、そこから人を回せます。そのうえで、いつ再開するかの目安も書いておきます。
止めたまま忘れられると、利用者の生活の質が落ちたままになります。
何人でどこまでできるかを試す
計画に書いた優先業務が、実際にその人数でできるかは分かりません。机の上で決めた並びは、やってみると崩れることがあります。
訓練の日に、あえて少ない人数で半日回してみる方法があります。実際に試すと、書いていなかった作業が出てきます。
配膳の準備、記録の入力、家族からの電話。こうした細かい作業が積み重なって、手が回らなくなります。
試した結果は、計画に反映します。そのうえで、翌年の訓練でもう一度確かめると、精度が上がっていきます。
介護のBCPに書く項目
介護のBCPに書く項目は、時間の順に並べると読みやすくなります。発生してから復旧までの流れに沿う形です。
- 1 初動 安否確認と連絡
- 2 被害の把握 人と建物と物
- 3 優先業務の判断 何を続けるか
- 4 人の手当て 応援と勤務の組み替え
- 5 関係先への連絡 家族と市町村と医療
- 6 復旧 通常に戻す手順
この順で書いておくと、発生時にどこを開けばよいかが分かります。逆に、項目ごとにまとめる形だと、その場面で必要な情報が散らばります。
| 項目 | 内容 | 気をつけるところ |
|---|---|---|
| 体制 | 誰が指揮するか | 不在時の代理も決める |
| 連絡先 | 職員と関係先 | 別紙にして更新しやすく |
| 安否確認 | 方法と集約 | 夜間や休日も動く形 |
| 優先業務 | 続けるものの順序 | 人数ごとに書く |
| 備蓄 | 水と食料と衛生用品 | 数量と保管場所 |
| 復旧の判断 | 通常に戻す基準 | 誰が決めるか |
右の列は、実務でつまずきやすい点です。そのうえで、連絡先だけは別紙にしておくと、人が代わったときに差し替えで済みます。
指揮する人と代理を決める
発生時に指揮するのは、多くの場合は管理者です。とはいえ、管理者が出勤できない場面も想定しておきます。
第1順位から第3順位まで決めておくと、誰が判断するかで迷いません。そのうえで、夜勤帯だけは別の順序にする形もあります。
判断する権限がどこまであるかも書いておくと、その場で動けます。
安否確認の方法を試す
安否確認の方法を決めていても、実際に動くかどうかは別です。一斉送信の仕組みを入れていても、登録が古ければ届きません。
安否確認は平時に試しておかないと、当日に動きません。
備蓄の数量と場所を書く
備蓄は、種類と数量と保管場所を書きます。「3日分」とだけ書いてあると、実際に足りるかどうかが分かりません。
利用者の人数、職員の人数、それぞれの1日あたりの必要量。そこから計算した数量を書いておくと、補充のときにも使えます。
保管場所は、複数に分けておくと安心です。1か所にまとめていると、そこが使えなくなったときに全部が失われます。
食料と水のほかに、衛生用品も要ります。おむつ、手袋、マスク、消毒液。感染症の場面では、消耗が早くなります。
期限のあるものは、入れ替えの時期を管理表に入れておきます。そのうえで、期限が近いものから日常で使う形にすると、無駄が出ません。
介護のBCPと非常災害対策計画の違い
介護のBCPと非常災害対策計画は、別の計画として求められています。とはいえ、内容には重なる部分があります。
上の2つが、それぞれの中心になります。一方で、下の3つは両方に出てくるため、まとめて持つことができます。
避難の後の話がBCPになる
非常災害対策計画は、災害が起きたときに安全を確保する計画です。避難の経路、避難先、避難の判断基準を書きます。
BCPは、その後の話になります。避難した先で、どうやってサービスを続けるか。ここが中心です。
そのため、時間の軸で言えば、非常災害対策計画のほうが先に来ます。
重なる部分は片方にまとめる
安否確認の方法、職員の連絡先、備蓄の一覧。これらは、両方の計画に同じ内容が入ります。
そのため、別紙にして両方から参照する形にすると、更新が1回で済みます。逆に、それぞれに書いていると、片方だけ古くなります。
別紙には版数と更新日を入れておくと、どちらが最新か分かります。
訓練は合わせて行える
避難訓練とBCPの訓練は、続けて行えます。避難したところから、そのまま業務の継続に移る形です。
そのうえで、記録は分けて残します。どちらの訓練だったかが分かる形にしておくと、両方の実施が示せます。
年間の計画に、この組み合わせを入れておくと予定が立てやすくなります。
介護のBCPの研修と訓練を回す
介護のBCPは、作った後に研修と訓練が求められます。サービスの種類によって、年に必要な回数が決まっています。
回数は、施設系と在宅系で違います。そのため、自事業所に求められる回数を確認したうえで、年間の予定に入れます。
訓練は少ない人数でやってみる
訓練を全員そろった状態で行うと、本番との差が大きくなります。実際に困るのは、人が足りない場面だからです。
あえて半分の人数で半日回してみると、計画の抜けが見えてきます。そのうえで、出てきた問題を計画に書き足します。
うまくいかないことが見つかる訓練のほうが、価値があります。
研修の記録に内容を残す
研修の記録に「BCP研修」とだけ書いてあると、何を扱ったか分かりません。感染症の側だったのか、災害の側だったのかも読み取れません。
どちらを扱ったかを分けて残すと、両方の実施が示せます。
見直しは年に1回の予定に入れる
計画の見直しは、日を決めておかないと流れます。年度の初めや、訓練の後に行う形が実務的です。
見直すのは、連絡先、職員の人数、備蓄の数量、優先業務の並び。そのうえで、その年に起きたことがあれば、それも反映します。
見直した記録を残しておくと、次の年の材料になります。
介護のBCPでつまずきやすいところ
介護のBCPは、作った後に開かれないまま古くなります。使える形になっているかは、4つの点で確かめられます。
- 優先業務を人数ごとに書いたか はい次へ いいえ半分の人数で並べ直す
- 応援を頼める先を具体に書いたか はい次へ いいえ相手と連絡先を決める
- 訓練で少ない人数を試したか はい次へ いいえ次の訓練で試す
- 初動の1枚を現場に置いたか はい使える形になっている いいえ各フロアに置く
半分の人数で並べ直すと、計画の抜けが出てくる
4つのうち、いちばん抜けやすいのは1つ目です。優先業務を並べても、人数ごとに書いていないと当日に判断が要ります。
国の様式をそのまま埋めない
厚生労働省が示しているひな形は、項目の抜けを防ぐには役立ちます。一方で、そのまま埋めると自事業所の実態と離れた文書になります。
利用者の人数、建物の構造、職員の通勤範囲。そのうえで、周辺の地形や想定される災害も違います。
ひな形は項目の一覧として使い、中身は自事業所の言葉で書きます。
応援を頼める先を具体に書く
「近隣の事業所に応援を依頼する」とだけ書いてあると、当日に電話がかけられません。どこに、誰に、どうやって頼むのかが決まっていないためです。
相手の名前まで書いておくと、当日に電話がかけられます。
半分の人数で並べ直す
優先業務の並びは、通常の人数を前提に書かれがちです。そのため、半分の人数を前提に並べ直すと、抜けが出てきます。
「この作業は誰がやるのか」という問いが、いくつも出てきます。そのうえで、答えられないものが計画の穴になります。
穴が見つかることが、この作業の目的です。
感染症の側は勤務の組み替えまで書く
感染症では、職員が日ごとに欠けていきます。勤務表をどう組み替えるかまで書いておくと、当日の作業が減ります。
夜勤を何人体制にするか、日勤を何時間にするか。そのうえで、勤務の変更をどう伝えるかも決めておきます。
労働時間の扱いについても、あらかじめ確認しておくと後で揉めません。
介護のBCPを発生時に使える形にする
介護のBCPは、置き場所と分量で使えるかどうかが決まります。本体を事務室のファイルに綴じただけでは、発生時に開かれません。
- 1 初動の1枚 手順と連絡先
- 2 置き場所 事務室と各フロア
- 3 職員に周知 研修で場所を伝える
- 4 訓練で使う 実際に手に取る
- 5 更新 年に1回差し替え
この流れのうち、4つ目が抜けやすい部分です。訓練で実際に手に取ってみないと、読みにくさに気づけません。
初動の1枚に絞る
初動の1枚に書くのは、最初の1時間にすることだけです。利用者の安否確認、職員の安否確認、被害の把握、誰に連絡するか。
裏面に連絡先を並べておくと、両面で足ります。そのうえで、判断に迷ったときの相談先も書いておきます。
分量が増えると、その場では読まれません。
各フロアに置く
事務室にしか置いていないと、夜間にそこへ行けない場面があります。各フロアのステーションにも1枚ずつ置いておきます。
そのうえで、置き場所を職員に伝えます。研修のときに実際に手に取ってもらうと、記憶に残ります。
ラミネートしておくと、水に濡れても読めます。
年に1回差し替える
連絡先や職員の名前は、1年で変わります。古い紙が現場に残っていると、当日に電話がつながりません。
年に1回、計画の見直しに合わせて差し替えます。そのうえで、古い版は回収します。
差し替えた日を紙に印字しておくと、最新かどうかが分かります。
様式は業務継続計画(BCP)テンプレートからダウンロードできます。感染症の側は感染症まん延防止の指針、災害の側は非常災害対策計画にまとめています。
よくある質問
BCPは感染症と自然災害を分けて作るのですか。
2つを別の計画として作る形が示されています。起きることも動き方も違うため、1つにまとめると発生時に読めません。共通する部分(連絡先や体制)は別紙にして両方から参照する形にすると、更新の手間が減ります。
BCPと非常災害対策計画は同じものですか。
別のものとして扱う形が一般的です。非常災害対策計画は避難と安全の確保が中心で、BCPは業務を続けることが中心になります。内容が重なる部分があるため、両方を持ったうえで参照し合う形にすると食い違いません。
研修と訓練はどのくらい必要ですか。
サービスの種類によって回数の定めが違います。感染症と自然災害のそれぞれについて求められる形になっており、年間計画に入れて回す事業所が多くあります。回数は改定で変わるため、その時点の基準で確認しておくと安心です。