介護のBCPの作り方|感染症と自然災害の2本立て

公開 2026年9月3日

目次8項目

BCPを作ったものの、ファイルに綴じたまま一度も開いていない。そういう事業所は少なくありません。国の様式を埋めることが目的になってしまうと、実際に人が足りなくなった日には使えない紙になります。

一般には、優先して続ける業務を決め、人と物が足りないときの手当てを書きます。その裏返しとして、何をやめるかも決めることになります

とはいえ、やめるものを書くのは気が進まない作業です。そこを避けると、すべてを続ける計画になってしまいます。

ポイントはここです。介護のBCPは、何をやめるかを先に決めておくための計画になります

ここでは、何を決める計画なのか、感染症と災害の分け方、優先業務の決め方、そして発生時に使える形にするところまでを順に整理します。

介護のBCPとは何を決める計画か

介護のBCPは、災害や感染症が起きたときに、サービスをどう続けるかを決めた計画です。2024年度から、すべての介護サービス事業者に策定が義務づけられました。

  • 優先する業務やめないもの
  • 人と物足りないときの手当て
  • 連絡誰にどう伝えるか
BCPは、優先業務・人と物・連絡の3つを決める

3つのうち、いちばん時間をかけたいのが1つ目です。

すべてを続ける計画は、人が半分になったときに使えません

何をやめるかを決める計画になる

優先する業務を決めるということは、優先しない業務を決めることでもあります。入浴を週2回から週1回にする、レクリエーションを止める、といった判断です。

平時にこれを決めておかないと、当日に管理者が1人で判断することになります。そのうえで、家族への説明も同時に求められます。

やめるものを先に決めておくと、当日の判断が要りません

感染症と自然災害を分ける

BCPは、感染症と自然災害の2本立てで作ります。起きることが違うため、備えるものも変わるためです。

感染症では、建物は使えますが、職員が欠けます。陽性者や濃厚接触者が出るたびに、出勤できる人が減っていきます。

自然災害では、建物や道路が使えなくなります。職員自身も被災するため、出勤できるかどうかが読めません。

そのため、1つの計画にまとめると、どちらの場面でも使いにくいものになります。2本に分けたうえで、共通する部分を別紙にする形が扱いやすくなります。

発生時に読める形にする

計画の本体は、どうしても分量が増えます。30ページの文書を、停電の中で読むことはできません。

そのため、初動の手順だけを1枚にまとめておきます。最初の1時間に何をするか、誰に連絡するか。この2つが書いてあれば足ります。

本体は事務室に置き、1枚は各フロアに置く。この二段構えにしておくと、両方が生きます。

介護のBCPで感染症と自然災害を分ける

介護のBCPを2本に分けるのは、欠けるものが違うためです。感染症では人が欠け、災害では場所とライフラインが欠けます。

感染症のBCP

  • 職員が欠ける
  • 建物は使える
  • 数日から数週間続く
  • 隔離と動線の分離

自然災害のBCP

  • 建物や道路が使えない
  • 職員も被災する
  • 発生は突然
  • 安否確認とライフライン
欠けるものが違うため、備えるものも変わる

左は、人の手当てが中心になります。一方で右は、場所とライフラインの確保が中心になります。

感染症は人の手当てが中心になる

感染症の場面では、出勤できる職員が日ごとに変わります。今日は8人いても、明日は5人になるかもしれません。

そのため、人数ごとに何ができるかを書いておきます。8人のとき、5人のとき、3人のとき。それぞれで続ける業務を並べる形です。

そのうえで、応援を頼める先も決めておきます。法人内の他事業所、系列の施設、人材派遣。相手の名前と連絡先まで書いておきます。

災害は場所とライフラインが中心になる

災害の場面では、建物が使えるかどうかが最初の分かれ目になります。使えなければ、避難先での生活が始まります。

水、電気、ガス、通信。それぞれが止まったときにどうするかを書きます。非常用電源があるなら、何時間もつのかも確認しておきます。

そのうえで、備蓄の数量と保管場所を書いておきます。3日分といっても、利用者と職員の人数で必要量が変わります。

共通する部分は別紙にする

感染症と災害で、内容が同じになる部分があります。職員の連絡先、関係先の一覧、備蓄の場所、指揮する人の順序。

共通する部分を別紙にすると、更新の手間が半分になります

介護のBCPで優先する業務をどう決めるか

介護のBCPで優先する業務を決めるとき、感覚で並べると差がつきません。どれも大事に見えて、結局すべてが優先業務になります。

そのため、止めたときに何が起きるかで並べる形にします。

  1. 止めると命に関わるか はい最優先で続ける いいえ次へ
  2. 数日なら止められるか はい一時的に止める いいえ次へ
  3. 外部に頼めるか はい委託や応援を検討 いいえ次へ
  4. 内容を薄くできるか はい回数や時間を減らす いいえ続ける方法を考える

命に関わるものから順に並べると、やめる順序が決まる

優先する業務を決める順序

やめる順序が決まっていると、当日の判断が要りません。

食事と排泄と服薬を最優先に置く

止めると命に関わるのは、食事、水分、排泄、服薬の4つです。どれも、1日止まるだけで状態が変わります。

そのため、この4つは人数が減っても続ける前提で組みます。食事は調理を簡素にする、入浴は清拭に切り替える、といった形で薄くします。

薄くする方法も、平時に決めておくと当日に迷いません。

一時的に止められるものを挙げる

レクリエーション、外出の行事、面会の対応、季節の催し。数日から数週間であれば、止められるものがあります。

一時的に止めるものを挙げておくと、そこから人を回せます。そのうえで、いつ再開するかの目安も書いておきます。

止めたまま忘れられると、利用者の生活の質が落ちたままになります。

何人でどこまでできるかを試す

計画に書いた優先業務が、実際にその人数でできるかは分かりません。机の上で決めた並びは、やってみると崩れることがあります。

訓練の日に、あえて少ない人数で半日回してみる方法があります。実際に試すと、書いていなかった作業が出てきます。

配膳の準備、記録の入力、家族からの電話。こうした細かい作業が積み重なって、手が回らなくなります。

試した結果は、計画に反映します。そのうえで、翌年の訓練でもう一度確かめると、精度が上がっていきます。

介護のBCPに書く項目

介護のBCPに書く項目は、時間の順に並べると読みやすくなります。発生してから復旧までの流れに沿う形です。

  1. 1 初動 安否確認と連絡
  2. 2 被害の把握 人と建物と物
  3. 3 優先業務の判断 何を続けるか
  4. 4 人の手当て 応援と勤務の組み替え
  5. 5 関係先への連絡 家族と市町村と医療
  6. 6 復旧 通常に戻す手順
初動から復旧までを、時間の順に並べる

この順で書いておくと、発生時にどこを開けばよいかが分かります。逆に、項目ごとにまとめる形だと、その場面で必要な情報が散らばります。

項目内容気をつけるところ
体制誰が指揮するか不在時の代理も決める
連絡先職員と関係先別紙にして更新しやすく
安否確認方法と集約夜間や休日も動く形
優先業務続けるものの順序人数ごとに書く
備蓄水と食料と衛生用品数量と保管場所
復旧の判断通常に戻す基準誰が決めるか

右の列は、実務でつまずきやすい点です。そのうえで、連絡先だけは別紙にしておくと、人が代わったときに差し替えで済みます。

指揮する人と代理を決める

発生時に指揮するのは、多くの場合は管理者です。とはいえ、管理者が出勤できない場面も想定しておきます。

第1順位から第3順位まで決めておくと、誰が判断するかで迷いません。そのうえで、夜勤帯だけは別の順序にする形もあります。

判断する権限がどこまであるかも書いておくと、その場で動けます。

安否確認の方法を試す

安否確認の方法を決めていても、実際に動くかどうかは別です。一斉送信の仕組みを入れていても、登録が古ければ届きません。

安否確認は平時に試しておかないと、当日に動きません

備蓄の数量と場所を書く

備蓄は、種類と数量と保管場所を書きます。「3日分」とだけ書いてあると、実際に足りるかどうかが分かりません。

利用者の人数、職員の人数、それぞれの1日あたりの必要量。そこから計算した数量を書いておくと、補充のときにも使えます。

保管場所は、複数に分けておくと安心です。1か所にまとめていると、そこが使えなくなったときに全部が失われます。

食料と水のほかに、衛生用品も要ります。おむつ、手袋、マスク、消毒液。感染症の場面では、消耗が早くなります。

期限のあるものは、入れ替えの時期を管理表に入れておきます。そのうえで、期限が近いものから日常で使う形にすると、無駄が出ません。

介護のBCPと非常災害対策計画の違い

介護のBCPと非常災害対策計画は、別の計画として求められています。とはいえ、内容には重なる部分があります。

  • 避難と安全の確保 5非常災害対策計画の中心
  • 業務を続けること 5BCPの中心
  • 安否確認 2両方に出てくる
  • 備蓄 2両方に出てくる
  • 訓練 2合わせて行える
2つの計画で扱う内容の重なり方

上の2つが、それぞれの中心になります。一方で、下の3つは両方に出てくるため、まとめて持つことができます。

避難の後の話がBCPになる

非常災害対策計画は、災害が起きたときに安全を確保する計画です。避難の経路、避難先、避難の判断基準を書きます。

BCPは、その後の話になります。避難した先で、どうやってサービスを続けるか。ここが中心です。

そのため、時間の軸で言えば、非常災害対策計画のほうが先に来ます。

重なる部分は片方にまとめる

安否確認の方法、職員の連絡先、備蓄の一覧。これらは、両方の計画に同じ内容が入ります。

そのため、別紙にして両方から参照する形にすると、更新が1回で済みます。逆に、それぞれに書いていると、片方だけ古くなります。

別紙には版数と更新日を入れておくと、どちらが最新か分かります。

訓練は合わせて行える

避難訓練とBCPの訓練は、続けて行えます。避難したところから、そのまま業務の継続に移る形です。

そのうえで、記録は分けて残します。どちらの訓練だったかが分かる形にしておくと、両方の実施が示せます。

年間の計画に、この組み合わせを入れておくと予定が立てやすくなります。

介護のBCPの研修と訓練を回す

介護のBCPは、作った後に研修と訓練が求められます。サービスの種類によって、年に必要な回数が決まっています。

  • 研修 6か月 サービスにより回数が違う
  • 訓練 6か月 感染症と災害の両方
  • 計画の見直し 12か月 年に1回
  • 連絡先の更新 3か月 人の異動のたび
BCPの取り組みの周期(月数で比較)

回数は、施設系と在宅系で違います。そのため、自事業所に求められる回数を確認したうえで、年間の予定に入れます。

訓練は少ない人数でやってみる

訓練を全員そろった状態で行うと、本番との差が大きくなります。実際に困るのは、人が足りない場面だからです。

あえて半分の人数で半日回してみると、計画の抜けが見えてきます。そのうえで、出てきた問題を計画に書き足します。

うまくいかないことが見つかる訓練のほうが、価値があります。

研修の記録に内容を残す

研修の記録に「BCP研修」とだけ書いてあると、何を扱ったか分かりません。感染症の側だったのか、災害の側だったのかも読み取れません。

どちらを扱ったかを分けて残すと、両方の実施が示せます

見直しは年に1回の予定に入れる

計画の見直しは、日を決めておかないと流れます。年度の初めや、訓練の後に行う形が実務的です。

見直すのは、連絡先、職員の人数、備蓄の数量、優先業務の並び。そのうえで、その年に起きたことがあれば、それも反映します。

見直した記録を残しておくと、次の年の材料になります。

介護のBCPでつまずきやすいところ

介護のBCPは、作った後に開かれないまま古くなります。使える形になっているかは、4つの点で確かめられます。

  1. 優先業務を人数ごとに書いたか はい次へ いいえ半分の人数で並べ直す
  2. 応援を頼める先を具体に書いたか はい次へ いいえ相手と連絡先を決める
  3. 訓練で少ない人数を試したか はい次へ いいえ次の訓練で試す
  4. 初動の1枚を現場に置いたか はい使える形になっている いいえ各フロアに置く

半分の人数で並べ直すと、計画の抜けが出てくる

BCPが使える形になっているかの確認

4つのうち、いちばん抜けやすいのは1つ目です。優先業務を並べても、人数ごとに書いていないと当日に判断が要ります。

国の様式をそのまま埋めない

厚生労働省が示しているひな形は、項目の抜けを防ぐには役立ちます。一方で、そのまま埋めると自事業所の実態と離れた文書になります。

利用者の人数、建物の構造、職員の通勤範囲。そのうえで、周辺の地形や想定される災害も違います。

ひな形は項目の一覧として使い、中身は自事業所の言葉で書きます。

応援を頼める先を具体に書く

「近隣の事業所に応援を依頼する」とだけ書いてあると、当日に電話がかけられません。どこに、誰に、どうやって頼むのかが決まっていないためです。

相手の名前まで書いておくと、当日に電話がかけられます

半分の人数で並べ直す

優先業務の並びは、通常の人数を前提に書かれがちです。そのため、半分の人数を前提に並べ直すと、抜けが出てきます。

「この作業は誰がやるのか」という問いが、いくつも出てきます。そのうえで、答えられないものが計画の穴になります。

穴が見つかることが、この作業の目的です。

感染症の側は勤務の組み替えまで書く

感染症では、職員が日ごとに欠けていきます。勤務表をどう組み替えるかまで書いておくと、当日の作業が減ります。

夜勤を何人体制にするか、日勤を何時間にするか。そのうえで、勤務の変更をどう伝えるかも決めておきます。

労働時間の扱いについても、あらかじめ確認しておくと後で揉めません。

介護のBCPを発生時に使える形にする

介護のBCPは、置き場所と分量で使えるかどうかが決まります。本体を事務室のファイルに綴じただけでは、発生時に開かれません。

  1. 1 初動の1枚 手順と連絡先
  2. 2 置き場所 事務室と各フロア
  3. 3 職員に周知 研修で場所を伝える
  4. 4 訓練で使う 実際に手に取る
  5. 5 更新 年に1回差し替え
初動の1枚を作って、手に取れる場所に置く

この流れのうち、4つ目が抜けやすい部分です。訓練で実際に手に取ってみないと、読みにくさに気づけません。

初動の1枚に絞る

初動の1枚に書くのは、最初の1時間にすることだけです。利用者の安否確認、職員の安否確認、被害の把握、誰に連絡するか。

裏面に連絡先を並べておくと、両面で足ります。そのうえで、判断に迷ったときの相談先も書いておきます。

分量が増えると、その場では読まれません。

各フロアに置く

事務室にしか置いていないと、夜間にそこへ行けない場面があります。各フロアのステーションにも1枚ずつ置いておきます。

そのうえで、置き場所を職員に伝えます。研修のときに実際に手に取ってもらうと、記憶に残ります。

ラミネートしておくと、水に濡れても読めます。

年に1回差し替える

連絡先や職員の名前は、1年で変わります。古い紙が現場に残っていると、当日に電話がつながりません。

年に1回、計画の見直しに合わせて差し替えます。そのうえで、古い版は回収します。

差し替えた日を紙に印字しておくと、最新かどうかが分かります。

様式は業務継続計画(BCP)テンプレートからダウンロードできます。感染症の側は感染症まん延防止の指針、災害の側は非常災害対策計画にまとめています。

よくある質問

BCPは感染症と自然災害を分けて作るのですか。

2つを別の計画として作る形が示されています。起きることも動き方も違うため、1つにまとめると発生時に読めません。共通する部分(連絡先や体制)は別紙にして両方から参照する形にすると、更新の手間が減ります。

BCPと非常災害対策計画は同じものですか。

別のものとして扱う形が一般的です。非常災害対策計画は避難と安全の確保が中心で、BCPは業務を続けることが中心になります。内容が重なる部分があるため、両方を持ったうえで参照し合う形にすると食い違いません。

研修と訓練はどのくらい必要ですか。

サービスの種類によって回数の定めが違います。感染症と自然災害のそれぞれについて求められる形になっており、年間計画に入れて回す事業所が多くあります。回数は改定で変わるため、その時点の基準で確認しておくと安心です。

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